東京高等裁判所 昭和26年(う)1002号 判決
共犯者たる共同被告人の公判廷における供述を採つて相被告人に対する共同公訴事実を認定することは違法ではないし、斯る場合に必しも弁論を分離する必要はない。原判決には訴訟手続に関する違法は存在しない。
(弁護人控訴趣意)
一、原審は判決に影響を及ぼすこと明かな訴訟手続に法令の違反と法令の適用に誤りがある。
即ち被告は本件窃盜の事犯を首尾否認しつゞけている(記録第一八二頁第十四回公判調書)反面
「私は途中の田甫の処で待つて居て佐藤と乾の二人が何処からか皮を盜んで来たもので一緒に田甫の中のワラの下に隠すのを手伝つてやつただけで私は盜んだ処は知りません」と供述し、その後の盜品(山羊皮)運搬の行為と共に賍物運搬の事実は認めている、然るに之を窃盜に問擬し処断したのは共犯として問われている乾、佐藤両被告人の自白(朴被告人が寧ろ指導的に本件窃盜事犯に加工したという)を主要な証拠として認定していることは明白である。しかしながら公判廷における共同被告人の自白を証拠に引用するには、此場合弁論を分離して朴被告に対して前記乾、佐藤の両被告人に対する反対尋問権行使の機会を与えなければならぬ、然るにそれをやつていない。此点仮に反対尋問の機会を本件被告人(朴)及びその弁護人に対し与えたとしても所謂反対尋問権行使の機会を与えたにはならないから、若し被告人(朴)並弁護人にして、それに応じなかつたとしたら原審は更に一歩を進めて被告人(朴)及弁護人に対して所謂釈明権を行使し立証を促す義務がある(刑訴規則第二〇八条)し、被告人(朴)及弁護人がそれでも反対尋問権を行使して前記乾、佐藤両共同被告人の尋問を求めないときは原審は弁論を分離して職権で(刑訴第二八九条第二項)自白した前記両名の共同被告人を尋問することを宣しその弁論に於て被告人(朴)及弁護人に反対尋問権を行使させねばならなかつた。然るに原審はそれをやつていない、そして簡単に窃盜事犯の成立を認めて処断したのは遺憾であり、これ訴訟手続に関する法令の違反の結果であると同時にその結果実体法の適用を誤るという結果を招き因て判決に重大なる影響を及ぼしたと断ぜざるを得ない。